劇場公開15周年記念!
サマーウォーズ フィルムコンサート
劇場公開15周年記念となる、アニメーション映画『サマーウォーズ』フィルムコンサートが、6月30日(日)東京国際フォーラム ホールAにて開催された。インターネットの仮想空間と田舎の大家族というかけ離れたモチーフを、音楽で表現したのは、吉川晃司やサザンオールスターズなど多くのアーティスト作品に参加し、劇伴作家としては『踊る大捜査線』シリーズなどを手掛けてきた松本晃彦。今回のフィルムコンサートは、映画全編を上映し、その音楽を、和田一樹の指揮による新日本フィルハーモニー交響楽団と松本晃彦の演奏によって完全再現するというもの。新たな『サマーウォーズ』を体験することができたフィルムコンサートの模様をレポートする。
2009年8月1日に公開された細田守監督によるアニメーション映画『サマーウォーズ』は、長野県上田市を舞台のモデルに、物理部に所属する数学が得意な主人公・小磯健二(CV.神木隆之介)と戦国武将の末裔である大家族・陣内家が、インターネット上の仮想世界OZ(オズ)で起こった大きなトラブルに、力を合わせて立ち向かっていくという物語。15年前、劇場で観た鮮やかな青空と大きな入道雲……そして、観終わったあとに感じた満足感と心地よい余韻は、今も心に残り続けている。
劇場公開15周年を記念した、フルオーケストラによる今回のフィルムコンサートは、映画『サマーウォーズ』をそのまま上映し、そこで流れている音楽を、新日本フィルハーモニー交響楽団と劇伴を担当した作曲家・松本晃彦(シンセサイザー)の演奏によって完全再現するというもの。それは、生の楽器の迫力を感じながら映画を観るという、かつてない映像体験になることは間違いなかった。
『サマーウォーズ』のサウンドトラックは、長野県にある旧家の日常とデジタル空間であるOZの世界という、2つの大きく異なる世界を音楽で表現している。そのためジャンルの幅が広いところが魅力で、シンセを使ったデジタルサウンドから、壮大なオーケストラサウンドまで、さまざまな音楽をいっぺんに楽しむことができた。
映画の冒頭、OZの案内映像の後ろで流れている「仮想都市OZ」は、タイマーの音に合わせて、シンセとドラム、そして同期の音によって生み出されるきらびやかなデジタルミュージック。仮想世界のかわいいデザインとアバターにぴったりの世界観だ。
物語は、学校のアイドル的存在である夏希先輩(CV.桜庭ななみ)にバイトを頼まれ、健二が夏希と一緒に長野県上田市にある陣内家へ旅行に行くところから始まるのだが、そこで流れる「Overture of the Summer Wars」は、壮大なオーケストラサウンド。都会の慌ただしさや旅のドキドキワクワク感を感じさせる高揚感のある音楽に心が弾む。キャラクターが話しているところでは会話を邪魔しないメロディアスな音楽になったり、映像に合わせて緩急をつけながら派手に展開していく音楽なのだが、その生の迫力は凄まじかった。そして、旅の到着点である陣内家に着いたところでは、大自然の景色に合わせたような優雅で美しいメロディが流れる。まるでミュージカル映画のようなオープニングだった。
続く「陣内家」では、陣内家の日常を、映像ではコミカルに見せつつ、音楽はシンフォニックに表現する。「侘助」は、陣内家では問題児でもあった侘助が帰ってきたときに流れるシンセ楽曲で、緊張感がより一層際立っていたし、OZが何者かに乗っ取られた際に流れる「愉快犯」は、デジタルと弦楽器の融合で、何かイヤなことが起こりそうな不安感を煽ってきていた。
OZの世界の格闘技のチャンピオンであるキングカズマが活躍するアクションシーンで流れる「KING KAZMA」では、ハウスミュージックで会場のテンションを徐々に上げていく。そこから、OZを乗っ取ろうとした犯人である人工知能・ラブマシーンの逆襲でキングカズマが劣勢に立たされるのだが、そこからはドラムとシンセによるデジタルロックで表現。打ち込みがベースの曲だが、ドラムが生になることで迫力が確実に増していた。
賑やかな家族に少しの時間でも囲まれて楽しかったと健二が告白するシーンで流れる「健二」は、ピアノの美しい旋律に切ない気持ちになる。陣内家の栄おばあちゃん(陣内栄)が、電話で多くの頑張っている人を励ます名シーンで流れる「栄の活躍」では、本作のメインテーマとなるメロディが初めて登場する。映画のメインテーマは、物語が進む中で、アレンジを変えて何度も流れるものなのだが、ここではピアノが軸となり、物語に合わせてオーケストラが広がりを加えていく。ピアノが栄おばあちゃんの大きな温もりだとすると、家族の活躍に合わせて楽器が重なっていくようにも聴こえて、物語と音楽の深いつながりを感じた。そしてフィルムコンサートは、健二が栄おばあちゃんと花札をしながら「あんたならできるよ」と励まされるシーンで20分の休憩となる。
その夜明け、患っていた心臓病が悪化し、栄おばあちゃんは亡くなるのだが、夏希が泣きじゃくるシーンでは、寂しいストリングスの音色が印象的な楽曲が流れ、その切なさを助長させる。
劇伴の中でも、ひときわ特殊だった「陣内家の団結」は、ジャンルでいうとミニマルミュージックで、この淡々とした音楽と映像とのマッチングは、不思議さも出ていて素晴らしいものだった。コンサートでは、マリンバの音から始まり、パーカッション、シンセ、ドラム、ヴァイオリンなどの音が加わっていく。それぞれの楽器が短いフレーズを反復していき、最終的にそれらの音がまとまり、「締まっていこう」という佳主馬のセリフに帰結する流れは見事だった。ここはサントラとは音の編成も違って、少し雰囲気が変わっているようにも感じたが、コンサートならではのものが味わうことができた。
打楽器の荒々しさとストリングスとブラスによってアクションシーンを盛り上げた「戦闘ふたたび」。そこからの「崩壊」は、フルオーケストラによる大迫力で、映画館でも味わえないような臨場感を体験することができた。
栄とケンカをして出ていった侘助が、彼女の死を知るシーンで流れた「手紙」。栄おばあちゃんの声で読まれていく遺言に、ピアノの音色だけで寄り添うのだが、寂しさと温もりを感じる素晴らしい演奏で、とても感動的だった。そこから陣内家が一致団結し、再びOZでの危機に立ち向かうところで流れる「みんなの勇気」では、より一層豪華になったオーケストラの演奏で、メインテーマを聴かせていく。
ラブマシーンと陣内家の花札勝負で、敗北寸前だった夏希を、全世界の人が助けてくれるシーンで流れた合唱曲「1億5千万の奇跡」。合唱は音源を使用しつつ、フルオーケストラの素晴らしい演奏で、クライマックスシーンを彩っていく。ここでも感じたのは、松本が生み出す劇伴のメロディの素晴らしさだ。映像や物語に寄り添うだけでなく、しっかり主張のあるメロディラインがあるというのは、彼が歌モノ出身のミュージシャンだからなのかもしれない。
『サマーウォーズ』は後半、何度もクライマックスが訪れる「これぞ、エンターテイメント!」という作品なのだが、最後の最後に健二が活躍するシーンで流れる「The Summer Wars」は、メインテーマを、これまで流れた中で一番盛り上がるアレンジで表現している。栄おばあちゃんから陣内家、そして健二と、想いが引き継がれていくように、演奏がどんどん力強くなっていき、大きなパワーとなって危機を乗り越えていく。そうやって物語とリンクしながら、メインテーマがしっかりと視聴者の心に刻まれていく。
そして、OZでの戦いがすべて終わったあとに流れる「Happy End」では、ハープとフルートとピアノ、そしてストリングスやホルンの音色が優しく包み込んでくれる。そのメロディが「Overture of the Summer Wars」のラスト、健二が陣内家の正門に着いたときに流れていたメロディと同じであるのもドラマチックだった。すべてがそこから始まっていて、最初は夏希の偽装恋人として陣内家に来た健二が、夏希と心が通じ合うまでになるという、彼にとって忘れられないひと夏の思い出であったことが、この音楽からも感じられて、幸せな気持ちになった。その後に流れる映画の主題歌・山下達郎の「僕らの夏の夢」を、映画の感動を噛み締めながら聴き、フィルムコンサートは本編を終える。
アンコールでは、指揮者である和田一樹が、コンサート限定のバングルライトを手に、大きく振ってほしいと、観客にジェスチャーでリクエストする。実は本編中の「1億5千万の奇跡」では、奏者が手首のライトを光らせて演奏してくれていた。ただ、物語に没頭し、上質な音楽に聴き入っていた観客の大半は、そのライトを使うことなく終わってしまっていた。だからアンコールで、もう一度気持ちをひとつにしようと提案してくれたのだ。再びの「1億5千万の奇跡」の演奏では、満員となった東京国際フォーラム ホールAの客席に無数の光が揺れ、夏希に協力するために現れた無数のアバターのように美しい光景が広がっていた。その光が揺れる中で聴く演奏は、本編で聴くのとはまた違う感動があった。そして最後はフルオーケストラ、すべての奏者が参加しての「Overture of the Summer Wars」で、『サマーウォーズ フィルムコンサート』を締めくくる。15年経ってもまったく色褪せることのない映画『サマーウォーズ』。この映画を愛する人にとって、これから先いつまでも心に残る、素敵なコンサートであった。
Text:塚越淳一/Photo:星野麻美
サマーウォーズ
オリジナル・サウンドトラック
[12inch Analog]